氣象報告常常不準

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フランスの国籍法など

八幡和郎氏 『蓮舫「二重国籍」のデタラメ』(飛鳥新社)を読んでいて、蓮舫氏の件はさておき、欧州、特にフランスの国籍制度に興味をひかれた。

p51
 ヨーロッパではEU内外の経済開発が遅れた地域からの移民の増加、難民の大量発生、テロの横行というなかで、社会保障制度の崩壊、危険人物の監視、税金逃れの温床となる二重国籍者への風当たりが強くなった。1990年代から部分的に始まった国籍付与の厳格化や剥奪が、最近のテロの横行でますます強化されている。

・これだと「国籍付与」の条件はヨーロッパ全体で徐々に厳しくなっているような印象を受ける。1990年代から四半世紀。一貫してそうなのか?ヨーロッパ全体がそうなのか?
・「税金逃れの温床になる二重国籍者」という理屈がわからない。国籍付与でさらなる自国への納税義務を課せるなら、むしろ積極的に国籍付与したほうが得策ではないだろうか?

p51続き
 たとえば、私の長男は1990年にパリで生まれているが、この段階では、望めばフランス国籍を取ることも可能だった。ただ、そうすると当時は兵役義務が生じたので、男の子の場合は取得しないことが普通だった。
 しかし、女の子の場合はそのままにしておくことが多かった。「日本の法律ではダメということになっているのですが、うるさく言われることはいまのところないようなので、可能性を広げるためにそうしています。将来、日本政府が取り締まりを強化したら、その時はどちらか選ばなければならなくなりますが・・・」と言う人によく会った。

・八幡氏のご子息も重国籍になる可能性があった(女の子だったらもっと可能性が高かった)ということのようだ。
・「と言う人によく会った」というからには、そういう「お知り合い」は一人や二人ではないのだろう。
・「望めばフランス国籍を取ることも」とあるから、お知り合いの女の子は「望んで取った」ということだろうが、「日本の法律ではダメということになっているのですが、うるさく言われることはいまのところないようなので」とある。この部分、非常に引っかかる。国籍法11条「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」に触れることにならないのか?

p51続き
 フランスでも、外国人の国籍取得の要件は良く変更されたので、日本政府の政策変更があっても仕方ないとみんな覚悟していたから、今後、日本が法適用を厳しくしても非常識ということはないと思う。
 しかし、1993年に移民の増加に対処するために「パスクワ法」ができて、16歳までに5年間以上居住しないと国籍請求権が生じないことになったので、悩む余地がなくなった。
 したがって私の長男はフランス国籍は持っていない。もちろん将来、政策変更や欧州市民権への移行に伴って、権利が復活する可能性は皆無ではない。

ここまで読んだうえで、別の文献1)2)3)にも目を通してみてわかったこと。
・八幡氏の「ヨーロッパでは・・」というような、括りはあまりにもざっくりしすぎている。フランスは19世紀から出生地主義を制度に一部採り入れているのに対し、ドイツは2000年からである。国ごとに違う。

*1
・国籍付与は決して「厳格化」一辺倒ではない。フランスの場合、八幡氏が例に挙げている「1993年パスクワ法」は、たしかに厳格化であったが、わずか五年で終わり、次の「1998年シュヴェヌマン法」は「緩和」である(後述)。また、ドイツの出生地主義の採用は「緩和」である。
・ほかに「厳格化」の例があるのかもしれないが、八幡氏は具体例を示していない。
・ここまで、資料を見る限り「厳格化」が見られたのは「フランス」において「1993年~1998年」の一時的なものに過ぎない。「ヨーロッパでは」「厳格化や剥奪がますます強化」などという普遍性がある話には思えない。

 

・情報を総合すると・・

フランス国籍取得条件の変遷
「両親とも外国出身者のフランスで生まれた子供」について


1993年まで 
成人時、フランスの居住実績を条件に、国籍自動付与。(国籍取得意志を示して早期取得もできる)。

1993年パスクワ法(厳格化)
5年間の居住を条件に、16歳から21歳までの間に本人が「国籍取得意志を示す」ことで国籍付与。(自動では付与されない)。

1998年シュヴェヌマン法(緩和)
過去7年間のうち5年間の居住を条件に18歳で国籍自動付与。(国籍取得意志を示して早期取得もできる)

ということのようだ。(私の理解に間違いがあったら是非ご指摘ください。)
(日本人両親を持つフランス生まれの子にとっては、この「自動付与」か「国籍取得意志」が必要か、この違いは大きい。自動付与であれば、日仏二重国籍者になるが、「フランス国籍取得意志」を示した手続きでは、日本の国籍法11条で日本国籍を喪失することになる。)

『フランス国との絆は、フランス社会で受けた教育に由来し、フランスでの過去の居住を成人時に確認することで保証される。これが1889年以来のフランス法制の特徴である。』

文献3)中の「フランス国籍の付与についての出生地主義の原則の適用条件」(2.共和国の出生地主義の伝統)から

最後にこうした国籍取得条件を、日本で生まれ育ち日本の教育を受けた蓮舫氏のケースにあてはめてみても、最も「厳格」であったパスクワ法時期の条件含め、全く問題にならないことは明らかである。フランスで行政を学んだという八幡氏が蓮舫氏のケースをあれほど激しく攻撃するのが不思議でならない。

 

参考文献)
1)安保祐美子『国籍法改正に関する仏独比較』(横浜国際社会科学研究 第20巻 第3号 p39) 
https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=3210&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1&page_id=13&block_id=21

(2018年10月27日、リンク切れのため、次のリンクを追記します。)

https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=3210&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1&page_id=59&block_id=74

2)水野豊『意思表示のフランス国籍 パスクワ法からシュヴェーヌマン法へ(1994~1998)』
http://ci.nii.ac.jp/els/contents110000466359.pdf?id=ART0000845468

3)斎藤かぐみ『フランスの国籍法と移民法の再改正の動き』
http://www.netlaputa.ne.jp/~kagumi/prive/weil.html

*1:当初>「19世紀から出生地主義を取っている」
と書いておりましたが、2018年10月27日

>「19世紀から出生地主義を制度に一部採り入れている」
に修正しました。