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「日台重籍」・・無理筋の国籍選択義務

 蓮舫氏の騒動のあおりで、一般に、日本籍と台湾籍を併せ持つ人(以下日台重籍者)にも国籍法上の選択義務がある、という認識が広まった。
 「にも」と書いたのは、台湾は国ではないと扱われる以上、日台重籍は国籍法上の二重国籍にはならないとする説も一部にはあるからだ。*1

 だが、2016年10月に当時の金田法務大臣が記者会見で、一般に日台重籍者も選択義務を負うと受け取れる説明をした*2 ことで、「義務はある」として一応決着した形になっている。少なくとも一般には、そう思われている。

 

 国籍法の条文を眺めてみると、14条の「義務」は、13条の「権利」と対になっていることが分かる。

国籍法13条
『外国の国籍を有する日本国民』は△△することができる
外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を離脱することができる。
国籍法14条
『外国の国籍を有する日本国民』は○○しなければならない
外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに、その時が20歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

 蓮舫氏に関わる報道では、日台重籍者が『外国の国籍を有する日本国民』にあたることは当然という前提の下、14条の義務だけがクローズアップされていった。では13条の「権利」は日台重籍者については実際、どう扱われているのか?

 条文には「できる」とあっても実は「できない」。
 これは、ほかでもない八幡和郎氏の著書「蓮舫「二重国籍」のデタラメ」(p227)にて、法務省の見解が次のように紹介されている。*3

『ところが、日台二重国籍の人が台湾籍を選び日本国籍を離脱しようとするのは認めていないのである。その理由は、国籍法の条文が、「外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を離脱することができる(第十三条)」となっているように、「外国の国籍を有する」という条件のもと、台湾(中華民国)は日本が承認している国家ではないため、それが証明書を出すところの「国籍」は「外国の国籍」にあたらないからだという。』

 法務省は『台湾の「国籍」は「外国の国籍」に「あたらない」から「外国の国籍を有する日本国民」についての条文(13条)を適用しない』と説明してきたわけだ。

 日台重籍者について、13条では『外国の国籍を有する日本国民』には、「あたらない」といい、14条では「あたる」と扱っていることになる。この扱いの違いは説明されておらず、『二重基準』だとしか言えまい。

 筆者はこれを、「権利を認めず義務だけ課すのはけしからん」というような感情論で述べているのではない。日本籍の離脱を認めない一方で、国籍選択を義務とすれば、実際に次のような不都合が出る。

 日台重籍者のうち、特に台湾に居住する立場を考えてほしい。ここでは蓮舫氏のことは忘れて、例えば、福原愛さん、江宏傑さんご夫妻の間に生まれるお子さんが、台湾で育って、22歳になった、というケースを想像してほしい。
 台湾での国民としての権利を留保するため、台湾籍を残し、日本籍を離脱しようとすると「台湾籍は国籍ではないので選べない」「日本籍は離脱できない」と日本側からは説明される。かといって放っておけば、日台重籍のままで「選択義務を果たしていない」ことになる。この状況は全く道理に合わない。

 この矛盾を解消する方策は次の二つのいずれかだろう。
1.国籍法上では、一貫して台湾籍を『外国の国籍』と扱うことにする。14条の選択義務を課す一方、13条で台湾籍を選択して日本籍を離脱することを認める。

2.国籍法上では、一貫して台湾籍を『外国の国籍』と扱わないことにする。従来通り、13条で台湾籍を選択して日本籍を離脱することは認めないが、14条の選択義務は課さない。

 

 台湾籍の扱いは、しばしば、「歴史的経緯」や「一つの中国」問題などが持ち出され複雑になりがちだ。そうした背景理解も大切ではあるが、まずは、目の前の手続きの明らかな矛盾を解消してほしいと思う。

 

(補足)

 国籍法13条に関する法務省の説明に関しては、対比を際立たせるため、蓮舫氏を二重国籍と批判してきた八幡和郎氏の著書からあえて引用したが、この記述とほぼ同一の内容が、亜細亜大学非常勤講師の 多田恵氏の論考中*4に見いだせる。

 それぞれの発行日の点から、多田氏の論考が先行しており、オリジナルであることはあきらかで、八幡和郎氏は多田氏の著作を一部改変して利用しているものと思われる。このため、多田氏の文献も引用するとともに、比較結果を次に示す。

 

左:多田恵「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法」(2016年10月18日) http://www.ritouki.jp/index.php/info/20161019/
右:八幡和郎「蓮舫『二重国籍』のデタラメ」p227(2017年1月9日第一刷)
(テキスト比較ツール difff《デュフフ》ver.6.1使用)

f:id:liuk:20170807123852j:plain

 

*1:八幡和郎「台湾は国でなく二重国籍もないという説の誤り」アゴラ 2016年09月03日
http://agora-web.jp/archives/2021214.html

*2:法務省 法務大臣閣議後記者会見の概要 平成28年10月18日(火)
「一般論として,台湾出身の重国籍者については,法律の定める期限までに日本国籍の選択の宣言をし,これは国籍法第14条第1項,従前の外国国籍の離脱に努めなければならない,これは国籍法第16条第1項ということになります。期限後にこれらの義務を履行したとしても,それまでの間は,これらの国籍法上の義務に違反していたことになります。」
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00823.html

*3:八幡和郎 「蓮舫「二重国籍」のデタラメ」(p227)(飛鳥新社 2017年1月9日第一刷)

*4:多田恵「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法」(2016年10月18日) http://www.ritouki.jp/index.php/info/20161019/