日台重籍者の国籍法上の扱い「不開示決定」
台湾の籍を持つ日本国民(以下「日台重籍者」)は、日本の国籍法上、「外国の国籍を有する日本国民(重国籍者)」として扱われるのかどうか? 国籍選択義務を負うのかどうか?
2016年に起きた、蓮舫氏の国籍騒動では、日台重籍の場合も、国籍法14条の「外国の国籍を有する日本国民」にあたるという前提の下、「蓮舫氏は選択の義務を果たしていなかった」として批判されました。蓮舫氏はその後、台湾籍の離脱手続きを行いましたが、提出しようとした「台湾籍の離脱証明」を日本側は受け付けず、さらに「日本国籍の選択宣言」を行うことになりました。
こうした経緯から、「日台重籍者の扱い」は一般の外国との「重国籍者の扱い」と同様で、選択義務も負うのだ、と通常思われていることでしょう。
ところが、実務上の取り扱いを調べていくと、日本側が、台湾の籍を「(国籍法上は)外国の国籍」として扱っていない実態があらわになって、矛盾を生じてきます。
そもそも義務として「選択手続」を求めるのであれば、「義務を課す側」が、
・どういう選択肢があるか?
・それぞれの選択肢を選んだ場合に、それぞれどういう法的な効果があるか?
を詳細に説明するのが筋でしょう。さもなければ義務を課されようとする側は、判断ができません。
「選択」というからには、「複数」の「選択肢」があり、その中から一つを選ぶ手続きのはずです。日台重籍者に対して、選択を義務として課すというならば「日本国籍の選択」の他に「台湾籍の選択」があってしかるべきでしょう。しかし、筆者が2017年10月2日に東京法務局国籍課に電話で問い合わせたところ、
・台湾国籍と言うのは日本側の扱いではそもそも無い。日本国籍単一の国籍を持っているというふうに扱われる。
・台湾の国籍を選ぼうとしても、その手続きである日本籍離脱届は不受理になる。よって、そういった申請を出す必要はない。
と説明されました。(リンク先に録音あり)
法務局の国籍担当部署がこのように説明をしている以上、当事者は、選択について悩む必要はないはずです。この内容がそのまま役所から文書で公開されれば、当事者の多くが安心できるはずです。そこで当方は、この内容を「文書の形」でもらおうと、説明をしてくれた東京法務局に対して、2019年1月に、情報公開制度に基づいた文書開示の請求を行いました。対象は
・(上記の)私への回答内容に関する記録文書
・日台重籍について当事者に説明する際の根拠文書
の2件です。
ところが結果は両方とも不開示で、「保有していない」というのが理由でした。
不開示決定した行政文書の名称
平成29年10月2日に、開示請求者が東京法務局民事行政部国籍課に対して電話で問い合わせた際の質疑応答に関する記録不開示とした理由
開示請求に係る行政文書を保有していないため、不開示としました。
不開示決定した行政文書の名称
東京法務局民事行政部国籍課が、「日本と台湾の籍を併有する」と称する者に関する国籍法第14条の国籍選択義務について説明を求められた場合に、説明をする上で根拠とする通達、指針等の文書不開示とした理由
開示請求に係る行政文書を保有していないため、不開示としました。
「無い」と言われるとどうしようもなくなってしまいますが、
・問い合わせの窓口機関が、問い合わせについてどう回答したか、記録を残していない、などと言うことがあるものでしょうか?
・日台重籍の選択義務についての説明の根拠となる通達、指針などの文書が無いという理由付けもまた驚きです。
2016年10月18日の金田法務大臣会見では、日台重籍問題に関して「こうした課題について説明を求められればこういう回答をしています。」と、一貫した対応方針があるかのごとき説明をしています。
ならば、国籍相談を担当する各地方法務局に対して、この件についてさらなる問い合わせがあった場合はどのように答えるべきか、といった、通達が何かしら出ていそうなものではないでしょうか? 何も開示する文書が無いというのは、いくらなんでもおかしいとは思いませんか?