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日台重籍問題について 情報公開審査会 答申出る!・・蓮舫騒動大逆転?

「台湾の籍」を併有する日本国民(日台重籍者)の国籍法上の扱いについて、情報公開・個人情報保護審査会で行われた審査請求の答申が出ました。

・答申番号令和元年度(行情)295(諮問番号 令和元年(行情)諮問第4号)*1

http://www.soumu.go.jp/main_content/000654465.pdf

(審査会が法務省に確認した内容はp13-p15にあります。)

 これで、蓮舫さんの騒動における「義務違反」の前提が完全にひっくり返ったように自分には思えるのですが、自分は法律素人ですから、特に法律の専門家の皆様(要件事実⇒効果の基本思考を身に着けている方)に見ていただき、コメントをいただけると嬉しいです。


(経緯)
 2016年9月の蓮舫氏の国籍騒動では、台湾と日本の籍を併有する立場だった蓮舫氏が国籍法上の国籍選択義務を果たしていない、とバッシングを受け、大きく報道されました。
 しかし、一般の「日台重籍」当事者の立場に立って情報収集してみると、役所からは全く具体的な情報が文書の形では開示されていなかったのです。そもそも本当に選択義務対象なのかどうか?すらはっきりしません。専門の役所である「法務局」に問い合わせた事例では、「国籍選択宣言を出しておけば大丈夫」と言われたり、「台湾は国扱いではなく、日本側からすればそういう人は日本国籍単一国籍扱いだから選択は必要ない」と言われたり、もう、バラバラ。役所がこの調子ですから、何が本当のところか、わかりません。そんな状況なのに、蓮舫さんの騒動以降、日本社会の中で、日台重籍の当事者に対して「国籍法違反」呼ばわりするのはおかしいのではないか? そこで、「情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)」を使って、「日台重籍者の扱いについて、説明の根拠としている文書を開示してください」という申し立てをしたのです。
 ところが、「根拠文書は存在しない」として不開示決定にされてしまいました。
 なるほど、だから説明する担当者ごとに、言うことが違うのか!と納得してみたり、いやいや、「根拠文書が無い」って行政のあり方として、やっぱりすごくおかしいんじゃないの?と思ったり・・、それで、「情報公開・個人情報保護審査会」で「審査」をお願いすることにしたんですね。その結果が、この度、公にされたわけです。
 審査会の結論も「文書は無い」というものだったのですが、答申では、審査会の職員の方が、諮問庁(法務大臣:法務省)に確認して聞き出し、当方が知りたかった情報をほぼすべて答申の中に文書の形で含めてくださいました。(審査会の先生方、ありがとうございました。)

(答申の中身)
答申は
第1 審査会の結論
第2 審査請求人の主張の要旨
第3 諮問庁の説明の要旨
第4 調査審議の経過
第5 審査会の判断の理由
から成ります。中立的な立場から審査会がまとめている部分が「第5」であり、諮問庁から聞き出した内容がその中の 2(1)ア~コになります(p13~15)。
 日台重籍者の扱いの説明が、公式に、はじめて「文書化」されたことになり、意義は大きいと思われます。中でもア~ウの3つが最重要ポイントなので、そこだけ引用します。

ア 日本国籍及び外国国籍を保有する者は,国籍法14条の定める国籍選択義務を負うことになる。このような取扱いは,上記第3の2で説明したとおり,一般的なものであって,文書を作成又は取得していない。
(第3の2・・国籍法14条の定める国籍選択義務を有する「外国の国籍を有する日本国民」における「外国の国籍」とは,日本国が国家として承認している国の国籍を指すところ,このような取扱いは一 般的なものであって,特段の文書は存在しない。)

イ そもそも,ある者が外国の国籍を保有しているかどうかは,当該外国政府が把握していることであり,他国の政府が判断することはできない。この点からすると,日本国籍と外国国籍を併有すると称する者が,日本以外のいかなる国の国籍を保有しているかは,当該外国政府の発行する証明書によって判断することとなる。このような取扱いは一般的なものであり,通常,届出のあった個別事案ごとに検討し判断を行っている。つまり,処分庁は,電話のみの照会や問い合せにより判断を行うことはできない。したがって,特定年月日の東京法務局の電話による問合せの回答である,一律に「台湾の籍を有する日本国民は,日本側は当事者を日本国籍単一国籍者と扱う。」という説明は,不正確だったといえる。
なお,当時対応した職員に聞き取りを行ったところ,記憶は定かではないが,おそらく当時の電話での問合せに対する回答については,資料を確認した上でのものではなかったと思う旨の回答を得ている。

ウ また,国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書を国籍証明書として届書に添付された場合には,受理することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結であり,文書を作成又は取得していない。

読み解いていきましょう。
アは、国籍法14条の原則論を述べていますが、「上記第3の2で説明したとおり」として「「外国の国籍」とは,日本国が国家として承認している国の国籍を指す」ことを明らかにしています。
 反対解釈すれば日本国が国家として承認していないところの「台湾の籍」については、「それ自体」はここでいう「外国の国籍」に含まれないということになるでしょう。

イは、「外国国籍を持つかどうか」は日本側では、「当該外国政府の発行する証明書によって」判断するとしています。
 また、法務局で「台湾の籍を有する日本国民は,日本側は当事者を日本国籍単一国籍者と扱う。」と電話で説明していた事実があることを認めたうえで、それを「不正確だった」と述べています。(但し、「完全な誤りだった」とは言っていません。)
 これは、日台重籍者が「(日本が有効と看做す)外国政府の発行する証明書」を取得している可能性が排除しきれないので、電話説明のように「一律に」「日本側は当事者を日本国籍単一国籍者と扱う。」としてしまうと厳密には正確ではないということでしょう。

ウは、「台湾当局発行の証明書」では国籍喪失又は国籍離脱は受け付けないと言っています。つまり、日本人が台湾に帰化しても、日本国籍の喪失届を受け付けないし、日台重籍者が「台湾籍を選択」しようとしても国籍離脱届を受け付けないことがはっきりしました。
この事実関係から導かれるのは・・・
・「日台重籍者」が、「中華人民共和国側の機関」へ出向き、「中国国籍」の証明をもらってきた場合には、日本側では「重国籍」だと扱う。
 ⇒(外国国籍の選択=日本国籍の離脱)も、この場合は認める。
そうしたレアケースまで想定し、一般の日台重籍者が「日本国籍選択宣言」を届ければ受け付けるのでしょう。
 実際、台湾当局の身分証明を持参し「中華人民共和国側の機関」に行けば容易に「中国国籍」の証明が発行されるというような話を聞いたことがあります。
※但し、台湾籍の当事者が、このようなことをすると、台湾側の法律(両岸条例)で台湾側の身分を喪失することになるそうです。
 つまり、日本が日台重籍者全般に「国籍選択」を義務として迫るということの意味は、

「日本」もしくは「中華人民共和国」のいずれかを選び、いずれにしても台湾籍を放棄しろ、

と言うことになります。
 この「意味」を理解したうえであれば、選択宣言未了の日台重籍者について、一律に義務違反者であるかのような印象を社会に広く流布し、名誉及び尊厳を傷つけることをこれ以上放置すべきではないと考えます。
 イの説明から導かれるとおり、日台重籍者のうち、「あえて台湾籍を放棄して中国側で国籍証明を取得した」ような、限られたケースに関してのみを「重国籍者」として扱っているのだということ、判断の要件である「当該外国(中国)政府の発行する証明書」を取得していない日台重籍者については、重国籍者扱いではないということを、日本側としては明確に説明すべきではないでしょうか。

*1:

注:この答申のファイルは次のリンク先からたどれる答申番号295です。

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/jyouhou/toushin_h3102_0004_00001.html