氣象報告常常不準

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台湾の籍を持つ日本国民が、必ずしも二重国籍扱いにはならない話 (情報公開・個人情報保護審査会の答申に基づいて)

2016年9月の騒動の時、蓮舫さんは
・「台湾の籍を残したまま」だったから「二重国籍」で「国籍法の義務違反」だ、
とバッシングを受けました。

でも蓮舫さん騒動のずっと前から「台湾の場合は、日本側から見ると国扱いではないから、両方の籍を持っていても、日本の役所では「単一国籍扱い」とされる」「問題ない」という話を、私は聞いていたのです。だから、当時の私は「そんなバカな」と驚きました。

いったい、いつから「扱い」が変わったの?
 役所で、当事者に対して「問題ないよ」と長年説明していたはずのものが、いつの間にか「義務違反だ」とされてしまうなんて、当事者の立場にたてば不意討ちもいいところで、とても恐ろしいことです。
 実際、私の周囲の当事者の不安は大変なもので、これはどうにかしなければいけないと思いました。そこで、2017年10月に、私自身で東京法務局に電話で問い合わせました。その結果は・・

「日本から見れば、台湾は国として認めているわけじゃないので単一国籍扱いですよ。」
「ええっ!」(だよね、昔からそういう話だったよね、でもじゃあ、蓮舫さんは?)
(この時の録音は https://www.youtube.com/watch?v=nsVLbr2ZEx8

その後、私は自分自身の体験談として「東京の法務局では、日本と台湾の場合は、単一国籍扱いだって言われたよ」と周囲の人に話してきました。ところがそのうち、私の話を聞いた人がさらに、東京法務局に電話して確認してみたところ、
「そんな説明はしていない」「その人(私のこと)が勘違いしているんだろう」
というようなことを言われたというんです。

ガクッときました。そりゃないです。友人の間で、まるでワタシがフェイクニュースの発信源みたいに疑われてしまいます。これは自分の信用、名誉のためにも捨て置けません。
それよりなにより「問題ないって言われたよ」と説明したとき、「ホッとした!」と喜んでくれた当事者に、またもや不安な思いをさせてしまうことが許せませんでした。

◎そういえば、蓮舫さんのときも・・と思いだしました。
 蓮舫さん、たしか「法務省から、台湾は国ではないから、問題ないと説明された」と話したあげく、大バッシングを受けていましたね。「そんな説明はしていない」との役所の手のひら返し。とどめは2016年10月18日 法務大臣閣議後記者会見での、このやりとり、
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【記者】
 民進党の蓮舫代表は,法務省から国籍法違反に当たらないという見解を文書で頂いたという趣旨の発言をされているのですが,今の大臣の御説明を前提とすると,国籍法の違反に当たらないという説明をした事実はないということでよろしいでしょうか。

【大臣】
 そうした発言については,今の段階で承知していません。一般論で申し上げたように,台湾出身の重国籍者については,法律の定める期限までに日本国籍の選択の宣言をし,従前の外国国籍の離脱に努めなければならず,期限後に,これらの義務を履行したとしても,それまでの間はこれらの国籍法上の義務に違反していたということになります。法務省としては,この点について説明を求められれば,同様の説明をすることになります。
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このやりとりで、蓮舫さんは、「話をでっち上げる人」というレッテルを貼られてしまいました。私も、このとき、「勘違いした話を吹聴している人」というレッテルを貼られそうになり、「経験したことのない怖さ」を感じました。(結果的に録音があって助かりましたが。)
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ちょっと脱線しますが、「国籍法の違反に当たらないという説明」についての大臣発言
『そうした発言については,今の段階で承知していません。』
この部分、読み返すと、「今の段階で」には、なんだか含みがありそうです。仮にそう説明していた事実が後で明らかになっても言い訳できるし、事実が明らかにならない限り、いかにも否定したような印象を与えることができる、巧妙な言い方です。
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さて、本題にもどって、
◎もうこれは、口頭で水掛け論していてもしょうがないから、行政から説明を「文書」で出してもらおう、と思い立ちました。
 義務なら義務で、義務でないなら義務でないで、説明の根拠になる「そう書いた文書」があるはずでしょう?
 そもそも、考えてみると「日台重籍」の問題についての公式な文書情報って、これまで全く無いじゃないですか?

 なるほど、マスコミ各紙が取材した記事。大学の先生や研究者がそれぞれ、いろんな説、解釈論を述べていますけれど、○○先生はこう書いている、○○新聞はこういう記事を書いていたといっても、それ、当事者にとってはあくまで参考情報にしかならないですよね、そういう巷の意見を読んだだけでは、安心して手続きなんかできません。
 重国籍扱いか否か、義務に当たるのかそうでないのか。そういう根本的な話は、それを扱う「国」が、文書で「国としての見解」を示してくれなければ、当事者は判断のしようがないのです。

 そこで私が使ったのが「情報公開制度」です
(総務省・情報公開制度 教えてペンゾー先生!)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000476660.pdf

 行政文書は、個人情報など、法律で決められた差しさわりのあるものを望いては、請求があったら「開示」することになっています。「これだっ!」と思ったのです。

 2019年1月7日、東京法務局に「行政文書開示請求書」を提出し、
「台湾の籍を持つ日本国民についての国籍選択の扱いに関する、説明の根拠文書」を開示するよう、求めました。
 2019年2月7日 「そういう文書は無いので不開示」という「決定通知書」が届きました。
 2019年4月15日、行政不服審査法を使って、法務大臣に審査請求をしました。「単一国籍扱いだ」と説明したんだから根拠文書が無いなんておかしいでしょ?という話です。

 2019年5月9日、法務大臣から、総務省の「情報公開・個人情報保護審査会」への諮問があり、その通知書が届きました。(その中で「令和31年諮問第4号」とあるのはご愛敬)

 2019年5月27日、当方から証拠資料(録音データ含む)と意見書を送りました。

 その後約半年待ちまして、
 2019年11月12日に、審査会の「答申」の公開に至りました。

 審査会の結論自体は「根拠の文書は無い」という、法務省側の説明をなぞるものだったのですが・・

※そのかわりに審査会が、諮問庁(法務大臣:法務省)に、どういう場合に重国籍者扱いにされるのか?など、扱いにかかわる内容を聞き出して、すべて答申書の中に記してくれました。私にとっては、結果的には欲しかった情報が、ほぼすべて得られたということで、「目的達成」です。

 その「答申書」がこちら。
・答申番号令和元年度(行情)295(諮問番号 令和元年(行情)諮問第4号)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000654465.pdf

この答申は、総務省のこちらのサイトからたどれます。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/jyouhou/toushin_h3102_0004_00001.html

特に、p13-p14の法務省側説明の内容は、きっと蓮舫さんもびっくりだと思います。
 ただ、表現が難しいので、私なりに思い切り意訳して書いてみます。 
(原文とつきあわせてご覧ください。解釈の間違いがあったらご指摘ください。)
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(超意訳)
第5 審査会ではこのように判断しました
1 今回の開示請求について
 今回の開示請求は、「台湾の籍を持つ日本国民についての国籍選択の扱いに関する、説明の根拠の文書」を見せてください、というものです。
 でも、法務省は、「そんな文書はありませんから、見せられませんよ」と言っています。
 審査請求をした人は、「そんなことは無いでしょう? もう一回よく探して、見せてくださいよ」と言っていますが、法務省は「無いものは無い」と言う話ですから、私たち審査会は、そういう文書があるのかないのか、と言う点から検討をしました。

2 今回の開示請求の対象文書があるのかないのかについて
(1)対象文書があるのかないのかについて、私たち審査会の事務局の担当者が、法務省の人から聞き取り調査しました。だいたい、次のようなことを言っていました。

ア)日本の国籍と外国の国籍を両方持つ人には、国籍法14条の国籍選択の義務があります。
 ただ、前にも説明しているように、この「外国の国籍」というのは
「日本が、『国家』として承認している国」の国籍のことなんですよ。でも、それって当たり前なので、わざわざ文書にしていません。

イ)ある人が外国の国籍を持っているかどうかは、その外国の政府が知っていることなので、別の国の政府が判断することはできません。
 だから「外国の国籍を持っているかどうか?」というのは、その外国の政府が出した証明書で判断します。このような扱いは当たり前なんです。届け出ごとに、個別に(証明書があるかないか)で「外国籍があるかどうか(二重国籍扱いか)」を判断しているんですね。
 ですから、電話で「私の場合、二重国籍扱いか?」などと聞かれても「(証明書の有無を厳密に確認できないので)答えられない」のです。
 以前、東京法務局に電話いただいたときに、一律に「台湾の籍を持っている日本国民は,日本側は当事者を日本国籍だけ(重国籍ではない)と扱う。」と説明しちゃっていたのはその通りなんですけど、それって「不正確だ」ということになります。
 あと、その時説明した職員も、何か根拠になる資料を確認して説明したわけではなかったらしいです。

ウ)あと、
・国籍喪失(日本人が、自ら望んで外国の国籍を取った場合、その外国国籍の証明書を日本側に出して、日本国籍を喪失する手続き)
・国籍離脱(日本と外国の国籍を持っている人が、外国側の国籍を選ぶ場合「確かにその外国の国籍を持っている証明」というのを日本側に出して、日本国籍を離脱する手続き)
というのがありますけど、どちらも「台湾当局」の証明書を持ってきても受け付けません。これも国籍法から当たり前のことなので、わざわざ文書にしていません。

エ)法務大臣が記者会見で、「台湾の国籍喪失証明」を持ってきても「外国国籍喪失届は受け付けません」と説明しましたが、国籍法から当然なので、そういうことを書いた文書もありません。

オ)市区町村役場から「台湾の籍」の扱いについて問い合わせがあったときには、法務局はどう答えていたの?と言う点ですが、そういう問い合わせがあったことが確認できないのでそういう文書もありません。

カ)「日本と台湾の籍を持っている人は、単一国籍者扱い」という文書はありません。法務局で回答した人が根拠もなく、そう言っちゃっただけです。

キ)「台湾に帰化手続き」をしても「国籍法11条の日本国籍喪失」をさせない、という文書はありません。(以下略)
(筆者注:とはいえ、ウでは、「台湾当局」の証明書を付けた国籍喪失届は受け付けないことを「国籍法の規定からの当然」としていますから、結局「「台湾に帰化手続き」をしても国籍法11条で国籍を喪失をさせない」と言うことになるんじゃないでしょうかね?)

ク)「日台重籍者の持つ台湾籍は「外国の国籍」にあたらない」という文書はありません。(筆者注:逆に、「外国の国籍」にあたる、という文書もないですよね。ア~ウからは台湾当局の証明書は受け付けず、「日本が、国家として認めている国の証明書」を持ってきたら、「外国の国籍を持っていると扱う」ことになりますが、考えにくいです)


ケ)それらしい題名の文書を調査したけれども、対象外でした。

コ)あと、パソコンや書庫などもう一度調べましたが、見つかりませんでした。
(筆者注:誠意をもって調査しましたよ、ということのアピールでしょう)

(2)法務省の(1)アからクまでの説明は、「特段」不自然不合理「とまで」は言い切れないから、こんなものでしょう。(以下略)
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※さて、この内容から読み取れることを考察しましょう。

A)過去、法務局で、一律に「台湾籍を持っている日本人は、日本国籍単一国籍扱い」と説明していた事実が認定されました。
 このことから、こうした言葉を信じていた立場のものについて、仮にあとから「厳密には重国籍扱い」だということになったとしても、そういう立場の人を「義務違反」などとして非難するのは、信義上許されない話です。

B)今回、審議会が聞き取った法務省の説明は、
・「台湾籍を持っている日本人は、日本国籍単一国籍扱い」と、過去、電話では説明していたものの、本来、個別に証明書を確認するのが正しいあり方で、電話相談で結論を言ってはいけない話でしたから、そういう意味で「不正確」でした、と言っています。
 証明書から個別に判断する、というのですから、一律に「台湾籍を持っている日本人は、全員二重国籍扱い」と言う話にはなりません。
※「重国籍者として扱われる場合」もあれば「日本国籍単一国籍者として扱われる場合」もあり得る、ということになります。

C)それでは、「重国籍」と判断されるのはどういう場合か、判断の要件となるのは、
「その外国の政府が出した証明書」の有無です
が「台湾当局の証明書」は受け付けませんとも言っています。
 ですから、ここから読み取る限り、「重国籍」と判断されることになる要件事実は、当事者が「中華人民共和国側の機関」に出向いて手続きをし、そちら側で「中華人民共和国側の国籍証明書」を取得している場合、に限られる、ということになると私は解釈します。

※蓮舫さんが行った「国籍選択届」というのは、証明書を取得していなくても、「○○国の国籍を持っている」と自己申告すれば受け付けられてしまう手続きです。蓮舫さんは「中国」と書いて手続きをしたので、受け付けられてしまったことになりますが、今回の法務省の説明に沿って判断すれば「中華人民共和国側で国籍証明」を取得したことが無いならば「重国籍者」には当たらない、と解釈するのが妥当ではないでしょうか?

 この辺は、是非、法律家の方のご意見をお伺いしたいところです。