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日台重籍者の国籍選択では日本国籍を放棄できるか?(情報共有用)

 日台重籍者の国籍選択で、「もしかしたら最近は、日本国籍の放棄を認める可能性もあるのではないか」というご意見をいただき、検索してみましたが、それらしい記事を私は見つけられませんでした。

 逆に「放棄できない」という記事がどのくらい最近まであるか探してみました。

多田恵先生の「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法」
(最終更新日時 : 2016年10月18日)においては

http://www.ritouki.jp/index.php/info/20161019/

陳全寿氏の事件からすでに12年が経っているので、念のため、再度、法務省に確認してみた。つまらない問答の末、しぶしぶ明かされたことは、「日本国籍離脱」の手続きであれ、「日本国籍喪失」の手続きであれ、台湾「国籍」への帰化ないし選択のためということであれば、これを行うことが出来ないという取扱いだという。

その理由は、国籍法の条文が「外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる(十三条)」というふうに「外国の国籍を有する」という条件であるところ、台湾(中華民国)は日本が承認している政府ではないため、それが証明書を出すところの「国籍」は「外国の国籍」にあたらないためだという。

 とありました。(太字強調はブログ主)日付の点でもっと新しいのは、

八幡和郎氏の「蓮舫『二重国籍』のデタラメ」(2017年1月9日第一刷)で

p227
 ところが、日台二重国籍の人が台湾籍を選び日本国籍を離脱しようとするのは認めていないのである。その理由は、国籍法の条文が、「外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を離脱することができる(第十三条)」となっているように、「外国の国籍を有する」という条件のもと、台湾(中華民国)は日本が承認している国家ではないため、それが証明書を出すところの「国籍」は「外国の国籍」にあたらないからだという。

という記述がありました。(太字強調はブログ主)日付ではこれが最新のようです。

補足:太字部分の微妙な違い
・が「外国」→が、「外国」
・届け出ることによって→届け出ることによつて
・十三条→第十三条
・というふうに→となっているように
・条件であるところ→条件のもと
・政府→国家
・ためだという。→からだという。

 

台湾籍とパレスチナ籍

 「台湾籍」が国籍法上「外国籍」にあたるかどうかに関して、制度上いろいろ矛盾があるが『中国との関係があるのでやむを得ない』という人がいる。

 ただ、私自身は『中国』は、実はあまり関係ないと思っている。というのは、日本の国籍法上「台湾籍」の人に生じる矛盾は『パレスチナ籍』の人にも全く同じように発生しているからだ。パレスチナ籍の扱いでイスラエルが横やりを入れてくる云々の話は聞かない。

 国と扱われていない台湾やパレスチナのパスポートが、日本において有効に扱われる根拠は、『出入国管理及び難民認定法(以下入管法)の第二条第五号』の 旅券の定義で

イ 日本国政府、日本国政府の承認した外国政府又は権限のある国際機関の発行した旅券又は難民旅行証明書その他当該旅券に代わる証明書(日本国領事官等の発行した渡航証明書を含む。)

に加えて、

ロ 政令で定める地域の権限のある機関の発行したイに掲げる文書に相当する文書 

があり、さらに入管法施行令の1条に

出入国管理及び難民認定法 (以下「法」という。)第二条第五号 ロの政令で定める地域は、台湾並びにヨルダン川西岸地区及びガザ地区とする。

と、あるからだ。(ちなみに「台湾籍」「台湾パスポート」という言い方をすると「中華民国でしょ」と指摘してくださる方がいるが、日本側の法令ではこのように「台湾」と書かれている。)

 パレスチナは、国籍法上、以前は「完全に」無国籍者の扱いで、パレスチナパスポートを持つ両親から日本国内で生まれた子供は、国籍法2条の「日本で生まれた場合において、父母が国籍を有しないとき。」に該当するものとして、日本国籍が付与されていた。ところが2007年10月以降は認められなくなった。それまでに日本国籍を認められてきたのは14人。
 将来この14人にも「国籍選択」を要求するのか?選ぶならパレスチナを選びたいと言ったら日本籍を離脱させるのか? 日台の場合と全く同じ問題がある。

参)第168回国会 280 パレスチナ人の子どもの国籍等に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/168280.htm

四 パレスチナ人父母の子どもの国籍について
 (1) 国籍法二条三号は、「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」、子どもは日本国民とする。従来、日本でパレスチナ人父母から生まれた子どもは、この規定にもとづき日本国籍を認められてきた。その数は十四人とされている。
  本年十月三日の通知により、この取扱いを変更し、このような子どもに日本国籍を認めないとした理由は何か。

(回答) 従来、パレスチナ人については、国籍法上、国籍を有しない者として取り扱ってきたが、パレスチナは国家として承認されていないものの、最近のパレスチナ地域における諸情勢、国家に近い形態が整備されているパレスチナ暫定自治政府(以下「パレスチナ自治政府」という。)の体制整備等の現状にかんがみると、パレスチナ人を国籍を有しない者と取り扱い、御指摘のような子に日本国籍を取得させる必要はないものと考えられることから、御指摘の通知により取扱いを変更したものである。

 

蓮舫さんの会見を見る前に

「日台重籍」者の置かれた立場について、予備知識として次の3つは読んでおいていただきたい。

1.櫻井よしこ先生の「理由は中国への気兼ねか? 日台両国の架け橋的人物の日本国政離脱を阻む不可解」
http://www.ritouki.jp/index.php/info/20040918/

2.多田恵先生の「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法」
http://www.ritouki.jp/index.php/info/20161019/

3.居留問題を考える会の「帰化(国籍取得)」
https://sites.google.com/site/kyorumondai/home/kika

蓮舫さんの擁護を意図しているわけではありません。会見時にもし、蓮舫さんが「自分は『ちゃんと』国籍選択して『違法状態』を『解消』しました」などという『無神経』な説明をするようであれば、私は蓮舫さんを許せないです

・現在日台重籍でもし、選択を義務と言われるなら、台湾を選びたい人。
・日本人で、台湾に帰化した人。

「日本政府」により「日本国籍」離脱が認められず、結果的に「日台重籍」になっているこうしたケースが「選択義務を果たしていない」などと誤解されないよう、配慮した説明ができるかどうかも、蓮舫氏の会見の見どころでしょう。

重国籍者の公職就任の議論 (1984年国会法務委員会)

 1984年の国籍法改正では、それまでの父系主義(父が日本国籍なら子は日本国籍を持つ)が、父母両系主義(父もしくは母が日本国籍なら子は日本国籍を持つ)に改められた。
 二重国籍者が公職に就くことを「法律の想定外」などとする論説を目にしたことがあるが、調べてみたところ、実際には当時の国会法務委員会で、既に論じられていた。

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/101/1080/10105101080006a.html

※ちなみに筆者は「台湾籍を「外国の国籍」にあたらないとした法務省の説明」 http://liuk.hatenablog.com/entry/2017/05/28/141514

がある以上、日台重籍の場合は、国籍法上の二重国籍とする解釈には疑問が残ると考えている。ここでは一般論として「二重国籍」の語を用いている。

 当時の政府委員の答弁を筆者なりに要約すると
・二重国籍の人が国会議員さらには総理大臣にもなりうることにつき、制限を設けることも考えられ、その場合でもそうした制限が憲法十四条に違反するものではないが、今すぐそうした制限を設ける話でもない。
重国籍者が参政権を行使しても権利の乱用になるとは考えてない。

 つまり、立法段階で想定済みであり、権利の乱用にはあたらないとされていた、と理解した。(「国籍法14条1項違反になるから、あり得ない」などという説明はされていない。)

第101回国会 法務委員会 第6号
昭和五十九年五月十日(木曜日)

(中略)
○飯田忠雄君 今私のお尋ねしたのは、選挙権とか被選挙権を与えるかどうかということなんですよ。それで、これはもう明確にお答えできると思いますが、つまり重国籍者、これは外国の主権に奉仕する義務を有する者でしょう。国籍を持っておる以上はその国の国民ですから、その国の国民は国の主権者です。例えばアメリカの国民はアメリカの主権者でしょう。同時に日本の主権者である。そういう場合に被選挙権を与えるということになりますと、アメリカの国に忠誠義務を尽くすことを要求されておる人が日本の国会議員になる、場合によっては自由民主党に属すれば総理大臣にもなる、こういうことになりましょう。そういう場合に具体的な条件を考えてなんていったようなことで済むかどうか。いかがですか。
○政府委員(関守君) 御指摘の点は確かに大変問題になるところであろうと思いますけれども、この点につきましては、事柄が重大でございますだけに、その判断になります要素というものは、やはり十分に考えて判断しなければいけない問題だというふうに思うわけでございます。私どもは先ほど申しましたように憲法十四条というのは合理的な差別を禁止するものではないと考えておりますので、一概にそういう制限ができないものではないというふうには考えておりますけれども、今すぐ選挙権なり被選挙権の制限についてどうかということはなかなか難しい問題だろうということで、さらに検討させていただきたいというふうに考えるわけでございます。
○飯田忠雄君 私は私の意見をちょっと述べますが、憲法には権利の乱用ということを禁止しておりましょう。これはお認めになりますか。権利の乱用はできない。これは最高裁の判例にもありますね。権利の乱用は認めていないのですよ。
 そこで、主権国家の立場から考えますと、二重国籍で外国の国籍を持っておる人が日本の憲法を盾にとって主権国家に反するような権利を要求するということは権利の乱用ではないか。権利の乱用であれば、憲法上認める必要はないのではないかと私は考えますが、法制局はどうお考えになりますか。
○政府委員(関守君) 重国籍者になるということは各国の国籍法の法制の違い等によりまして生じてくるわけでございまして、それによってそれぞれの国の法制のもとにおいて参政権が得られるということになります場合に、その権利があるということになったからといって主張できないということに必ずしもならないのじゃないか。それが権利の乱用になるというふうには私どもは考えておりません。
(以下略)

 2017年7月19日補足
「読む国会」さんの引用されている法務委員会議事録
(第101回国会 法務委員会 第10号 昭和五十九年八月二日(木曜日))の内容の方がずっと「ど真ん中」で勉強になります。

http://www.yomu-kokkai.com/entry/renho-kaiken
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/101/1080/10108021080010c.html

 

フランス前首相ヴァルス氏の国籍

「生まれてから現在に至るまでの国籍の異動について正確な情報を公開せずに、政治家であることを許す国が世界中にあるとは思わない」

蓮舫代表の戸籍公表宣言 公開の是非をめぐり、党内の分裂が顕在化 (産経新聞) - Yahoo!ニュース

産経新聞に出ていた八幡氏のこの言葉、いやにまわりくどい。

「二重国籍の政治家を許す国が世界中にあるとは思わない」と簡単に書けないのか?

それは「ある」のをよくご存じなのだろう。それでちょっと検証が難しくなるようにヒネってみたというところか。

さて、八幡氏が行政学を学んだというフランス。前首相のヴァルス氏はWikipediaによればカタルーニャ系スペイン人の父と、イタリア系スイス人の母の間に「スペイン」で生まれ、20歳ころの1982年にフランス国籍を取得したという。

果たしてヴァルス氏は、スペイン籍を放棄したのか、したなら、いつ放棄したのか。母からスイス国籍、ないしイタリア国籍を継承していたのではないかとか、そういったことを公開しているのだろうか?

そんなことは、フランスでは誰も問題にしていない、ということではないだろうか?

フランスの国籍法など

八幡和郎氏 『蓮舫「二重国籍」のデタラメ』(飛鳥新社)を読んでいて、蓮舫氏の件はさておき、欧州、特にフランスの国籍制度に興味をひかれた。

p51
 ヨーロッパではEU内外の経済開発が遅れた地域からの移民の増加、難民の大量発生、テロの横行というなかで、社会保障制度の崩壊、危険人物の監視、税金逃れの温床となる二重国籍者への風当たりが強くなった。1990年代から部分的に始まった国籍付与の厳格化や剥奪が、最近のテロの横行でますます強化されている。

・これだと「国籍付与」の条件はヨーロッパ全体で徐々に厳しくなっているような印象を受ける。1990年代から四半世紀。一貫してそうなのか?ヨーロッパ全体がそうなのか?
・「税金逃れの温床になる二重国籍者」という理屈がわからない。国籍付与でさらなる自国への納税義務を課せるなら、むしろ積極的に国籍付与したほうが得策ではないだろうか?

p51続き
 たとえば、私の長男は1990年にパリで生まれているが、この段階では、望めばフランス国籍を取ることも可能だった。ただ、そうすると当時は兵役義務が生じたので、男の子の場合は取得しないことが普通だった。
 しかし、女の子の場合はそのままにしておくことが多かった。「日本の法律ではダメということになっているのですが、うるさく言われることはいまのところないようなので、可能性を広げるためにそうしています。将来、日本政府が取り締まりを強化したら、その時はどちらか選ばなければならなくなりますが・・・」と言う人によく会った。

・八幡氏のご子息も重国籍になる可能性があった(女の子だったらもっと可能性が高かった)ということのようだ。
・「と言う人によく会った」というからには、そういう「お知り合い」は一人や二人ではないのだろう。
・「望めばフランス国籍を取ることも」とあるから、お知り合いの女の子は「望んで取った」ということだろうが、「日本の法律ではダメということになっているのですが、うるさく言われることはいまのところないようなので」とある。この部分、非常に引っかかる。国籍法11条「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」に触れることにならないのか?

p51続き
 フランスでも、外国人の国籍取得の要件は良く変更されたので、日本政府の政策変更があっても仕方ないとみんな覚悟していたから、今後、日本が法適用を厳しくしても非常識ということはないと思う。
 しかし、1993年に移民の増加に対処するために「パスクワ法」ができて、16歳までに5年間以上居住しないと国籍請求権が生じないことになったので、悩む余地がなくなった。
 したがって私の長男はフランス国籍は持っていない。もちろん将来、政策変更や欧州市民権への移行に伴って、権利が復活する可能性は皆無ではない。

ここまで読んだうえで、別の文献1)2)3)にも目を通してみてわかったこと。
・八幡氏の「ヨーロッパでは・・」というような、括りはあまりにもざっくりしすぎている。フランスは19世紀から出生地主義を制度に一部採り入れているのに対し、ドイツは2000年からである。国ごとに違う。

*1
・国籍付与は決して「厳格化」一辺倒ではない。フランスの場合、八幡氏が例に挙げている「1993年パスクワ法」は、たしかに厳格化であったが、わずか五年で終わり、次の「1998年シュヴェヌマン法」は「緩和」である(後述)。また、ドイツの出生地主義の採用は「緩和」である。
・ほかに「厳格化」の例があるのかもしれないが、八幡氏は具体例を示していない。
・ここまで、資料を見る限り「厳格化」が見られたのは「フランス」において「1993年~1998年」の一時的なものに過ぎない。「ヨーロッパでは」「厳格化や剥奪がますます強化」などという普遍性がある話には思えない。

 

・情報を総合すると・・

フランス国籍取得条件の変遷
「両親とも外国出身者のフランスで生まれた子供」について


1993年まで 
成人時、フランスの居住実績を条件に、国籍自動付与。(国籍取得意志を示して早期取得もできる)。

1993年パスクワ法(厳格化)
5年間の居住を条件に、16歳から21歳までの間に本人が「国籍取得意志を示す」ことで国籍付与。(自動では付与されない)。

1998年シュヴェヌマン法(緩和)
過去7年間のうち5年間の居住を条件に18歳で国籍自動付与。(国籍取得意志を示して早期取得もできる)

ということのようだ。(私の理解に間違いがあったら是非ご指摘ください。)
(日本人両親を持つフランス生まれの子にとっては、この「自動付与」か「国籍取得意志」が必要か、この違いは大きい。自動付与であれば、日仏二重国籍者になるが、「フランス国籍取得意志」を示した手続きでは、日本の国籍法11条で日本国籍を喪失することになる。)

『フランス国との絆は、フランス社会で受けた教育に由来し、フランスでの過去の居住を成人時に確認することで保証される。これが1889年以来のフランス法制の特徴である。』

文献3)中の「フランス国籍の付与についての出生地主義の原則の適用条件」(2.共和国の出生地主義の伝統)から

最後にこうした国籍取得条件を、日本で生まれ育ち日本の教育を受けた蓮舫氏のケースにあてはめてみても、最も「厳格」であったパスクワ法時期の条件含め、全く問題にならないことは明らかである。フランスで行政を学んだという八幡氏が蓮舫氏のケースをあれほど激しく攻撃するのが不思議でならない。

 

参考文献)
1)安保祐美子『国籍法改正に関する仏独比較』(横浜国際社会科学研究 第20巻 第3号 p39) 
https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=3210&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1&page_id=13&block_id=21

(2018年10月27日、リンク切れのため、次のリンクを追記します。)

https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=3210&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1&page_id=59&block_id=74

2)水野豊『意思表示のフランス国籍 パスクワ法からシュヴェーヌマン法へ(1994~1998)』
http://ci.nii.ac.jp/els/contents110000466359.pdf?id=ART0000845468

3)斎藤かぐみ『フランスの国籍法と移民法の再改正の動き』
http://www.netlaputa.ne.jp/~kagumi/prive/weil.html

*1:当初>「19世紀から出生地主義を取っている」
と書いておりましたが、2018年10月27日

>「19世紀から出生地主義を制度に一部採り入れている」
に修正しました。