氣象報告常常不準

台湾生活。華語・台湾語学習。システム関連の話題など。

蓮舫さんの会見を見る前に

「日台重籍」者の置かれた立場について、予備知識として次の3つは読んでおいていただきたい。

1.櫻井よしこ先生の「理由は中国への気兼ねか? 日台両国の架け橋的人物の日本国政離脱を阻む不可解」
http://www.ritouki.jp/index.php/info/20040918/

2.多田恵先生の「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法」
http://www.ritouki.jp/index.php/info/20161019/

3.居留問題を考える会の「帰化(国籍取得)」
https://sites.google.com/site/kyorumondai/home/kika

蓮舫さんの擁護を意図しているわけではありません。会見時にもし、蓮舫さんが「自分は『ちゃんと』国籍選択して『違法状態』を『解消』しました」などという『無神経』な説明をするようであれば、私は蓮舫さんを許せないです

・現在日台重籍でもし、選択を義務と言われるなら、台湾を選びたい人。
・日本人で、台湾に帰化した人。

「日本政府」により「日本国籍」離脱が認められず、結果的に「日台重籍」になっているこうしたケースが「選択義務を果たしていない」などと誤解されないよう、配慮した説明ができるかどうかも、蓮舫氏の会見の見どころでしょう。

重国籍者の公職就任の議論 (1984年国会法務委員会)

 1984年の国籍法改正では、それまでの父系主義(父が日本国籍なら子は日本国籍を持つ)が、父母両系主義(父もしくは母が日本国籍なら子は日本国籍を持つ)に改められた。
 二重国籍者が公職に就くことを「法律の想定外」などとする論説を目にしたことがあるが、調べてみたところ、実際には当時の国会法務委員会で、既に論じられていた。

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/101/1080/10105101080006a.html

※ちなみに筆者は「台湾籍を「外国の国籍」にあたらないとした法務省の説明」 http://liuk.hatenablog.com/entry/2017/05/28/141514

がある以上、日台重籍の場合は、国籍法上の二重国籍とする解釈には疑問が残ると考えている。ここでは一般論として「二重国籍」の語を用いている。

 当時の政府委員の答弁を筆者なりに要約すると
・二重国籍の人が国会議員さらには総理大臣にもなりうることにつき、制限を設けることも考えられ、その場合でもそうした制限が憲法十四条に違反するものではないが、今すぐそうした制限を設ける話でもない。
重国籍者が参政権を行使しても権利の乱用になるとは考えてない。

 つまり、立法段階で想定済みであり、権利の乱用にはあたらないとされていた、と理解した。(「国籍法14条1項違反になるから、あり得ない」などという説明はされていない。)

第101回国会 法務委員会 第6号
昭和五十九年五月十日(木曜日)

(中略)
○飯田忠雄君 今私のお尋ねしたのは、選挙権とか被選挙権を与えるかどうかということなんですよ。それで、これはもう明確にお答えできると思いますが、つまり重国籍者、これは外国の主権に奉仕する義務を有する者でしょう。国籍を持っておる以上はその国の国民ですから、その国の国民は国の主権者です。例えばアメリカの国民はアメリカの主権者でしょう。同時に日本の主権者である。そういう場合に被選挙権を与えるということになりますと、アメリカの国に忠誠義務を尽くすことを要求されておる人が日本の国会議員になる、場合によっては自由民主党に属すれば総理大臣にもなる、こういうことになりましょう。そういう場合に具体的な条件を考えてなんていったようなことで済むかどうか。いかがですか。
○政府委員(関守君) 御指摘の点は確かに大変問題になるところであろうと思いますけれども、この点につきましては、事柄が重大でございますだけに、その判断になります要素というものは、やはり十分に考えて判断しなければいけない問題だというふうに思うわけでございます。私どもは先ほど申しましたように憲法十四条というのは合理的な差別を禁止するものではないと考えておりますので、一概にそういう制限ができないものではないというふうには考えておりますけれども、今すぐ選挙権なり被選挙権の制限についてどうかということはなかなか難しい問題だろうということで、さらに検討させていただきたいというふうに考えるわけでございます。
○飯田忠雄君 私は私の意見をちょっと述べますが、憲法には権利の乱用ということを禁止しておりましょう。これはお認めになりますか。権利の乱用はできない。これは最高裁の判例にもありますね。権利の乱用は認めていないのですよ。
 そこで、主権国家の立場から考えますと、二重国籍で外国の国籍を持っておる人が日本の憲法を盾にとって主権国家に反するような権利を要求するということは権利の乱用ではないか。権利の乱用であれば、憲法上認める必要はないのではないかと私は考えますが、法制局はどうお考えになりますか。
○政府委員(関守君) 重国籍者になるということは各国の国籍法の法制の違い等によりまして生じてくるわけでございまして、それによってそれぞれの国の法制のもとにおいて参政権が得られるということになります場合に、その権利があるということになったからといって主張できないということに必ずしもならないのじゃないか。それが権利の乱用になるというふうには私どもは考えておりません。
(以下略)

 2017年7月19日補足
「読む国会」さんの引用されている法務委員会議事録
(第101回国会 法務委員会 第10号 昭和五十九年八月二日(木曜日))の内容の方がずっと「ど真ん中」で勉強になります。

http://www.yomu-kokkai.com/entry/renho-kaiken
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/101/1080/10108021080010c.html

 

フランス前首相ヴァルス氏の国籍

「生まれてから現在に至るまでの国籍の異動について正確な情報を公開せずに、政治家であることを許す国が世界中にあるとは思わない」

蓮舫代表の戸籍公表宣言 公開の是非をめぐり、党内の分裂が顕在化 (産経新聞) - Yahoo!ニュース

産経新聞に出ていた八幡氏のこの言葉、いやにまわりくどい。

「二重国籍の政治家を許す国が世界中にあるとは思わない」と簡単に書けないのか?

それは「ある」のをよくご存じなのだろう。それでちょっと検証が難しくなるようにヒネってみたというところか。

さて、八幡氏が行政学を学んだというフランス。前首相のヴァルス氏はWikipediaによればカタルーニャ系スペイン人の父と、イタリア系スイス人の母の間に「スペイン」で生まれ、20歳ころの1982年にフランス国籍を取得したという。

果たしてヴァルス氏は、スペイン籍を放棄したのか、したなら、いつ放棄したのか。母からスイス国籍、ないしイタリア国籍を継承していたのではないかとか、そういったことを公開しているのだろうか?

そんなことは、フランスでは誰も問題にしていない、ということではないだろうか?

フランスの国籍法など

八幡和郎氏 『蓮舫「二重国籍」のデタラメ』(飛鳥新社)を読んでいて、蓮舫氏の件はさておき、欧州、特にフランスの国籍制度に興味をひかれた。

p51
 ヨーロッパではEU内外の経済開発が遅れた地域からの移民の増加、難民の大量発生、テロの横行というなかで、社会保障制度の崩壊、危険人物の監視、税金逃れの温床となる二重国籍者への風当たりが強くなった。1990年代から部分的に始まった国籍付与の厳格化や剥奪が、最近のテロの横行でますます強化されている。

・これだと「国籍付与」の条件はヨーロッパ全体で徐々に厳しくなっているような印象を受ける。1990年代から四半世紀。一貫してそうなのか?ヨーロッパ全体がそうなのか?
・「税金逃れの温床になる二重国籍者」という理屈がわからない。国籍付与でさらなる自国への納税義務を課せるなら、むしろ積極的に国籍付与したほうが得策ではないだろうか?

p51続き
 たとえば、私の長男は1990年にパリで生まれているが、この段階では、望めばフランス国籍を取ることも可能だった。ただ、そうすると当時は兵役義務が生じたので、男の子の場合は取得しないことが普通だった。
 しかし、女の子の場合はそのままにしておくことが多かった。「日本の法律ではダメということになっているのですが、うるさく言われることはいまのところないようなので、可能性を広げるためにそうしています。将来、日本政府が取り締まりを強化したら、その時はどちらか選ばなければならなくなりますが・・・」と言う人によく会った。

・八幡氏のご子息も重国籍になる可能性があった(女の子だったらもっと可能性が高かった)ということのようだ。
・「と言う人によく会った」というからには、そういう「お知り合い」は一人や二人ではないのだろう。
・「望めばフランス国籍を取ることも」とあるから、お知り合いの女の子は「望んで取った」ということだろうが、「日本の法律ではダメということになっているのですが、うるさく言われることはいまのところないようなので」とある。この部分、非常に引っかかる。国籍法11条「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」に触れることにならないのか?

p51続き
 フランスでも、外国人の国籍取得の要件は良く変更されたので、日本政府の政策変更があっても仕方ないとみんな覚悟していたから、今後、日本が法適用を厳しくしても非常識ということはないと思う。
 しかし、1993年に移民の増加に対処するために「パスクワ法」ができて、16歳までに5年間以上居住しないと国籍請求権が生じないことになったので、悩む余地がなくなった。
 したがって私の長男はフランス国籍は持っていない。もちろん将来、政策変更や欧州市民権への移行に伴って、権利が復活する可能性は皆無ではない。

ここまで読んだうえで、別の文献1)2)3)にも目を通してみてわかったこと。
・八幡氏の「ヨーロッパでは・・」というような、括りはあまりにもざっくりしすぎている。フランスは19世紀から出生地主義を制度に一部採り入れているのに対し、ドイツは2000年からである。国ごとに違う。

*1
・国籍付与は決して「厳格化」一辺倒ではない。フランスの場合、八幡氏が例に挙げている「1993年パスクワ法」は、たしかに厳格化であったが、わずか五年で終わり、次の「1998年シュヴェヌマン法」は「緩和」である(後述)。また、ドイツの出生地主義の採用は「緩和」である。
・ほかに「厳格化」の例があるのかもしれないが、八幡氏は具体例を示していない。
・ここまで、資料を見る限り「厳格化」が見られたのは「フランス」において「1993年~1998年」の一時的なものに過ぎない。「ヨーロッパでは」「厳格化や剥奪がますます強化」などという普遍性がある話には思えない。

 

・情報を総合すると・・

フランス国籍取得条件の変遷
「両親とも外国出身者のフランスで生まれた子供」について


1993年まで 
成人時、フランスの居住実績を条件に、国籍自動付与。(国籍取得意志を示して早期取得もできる)。

1993年パスクワ法(厳格化)
5年間の居住を条件に、16歳から21歳までの間に本人が「国籍取得意志を示す」ことで国籍付与。(自動では付与されない)。

1998年シュヴェヌマン法(緩和)
過去7年間のうち5年間の居住を条件に18歳で国籍自動付与。(国籍取得意志を示して早期取得もできる)

ということのようだ。(私の理解に間違いがあったら是非ご指摘ください。)
(日本人両親を持つフランス生まれの子にとっては、この「自動付与」か「国籍取得意志」が必要か、この違いは大きい。自動付与であれば、日仏二重国籍者になるが、「フランス国籍取得意志」を示した手続きでは、日本の国籍法11条で日本国籍を喪失することになる。)

『フランス国との絆は、フランス社会で受けた教育に由来し、フランスでの過去の居住を成人時に確認することで保証される。これが1889年以来のフランス法制の特徴である。』

文献3)中の「フランス国籍の付与についての出生地主義の原則の適用条件」(2.共和国の出生地主義の伝統)から

最後にこうした国籍取得条件を、日本で生まれ育ち日本の教育を受けた蓮舫氏のケースにあてはめてみても、最も「厳格」であったパスクワ法時期の条件含め、全く問題にならないことは明らかである。フランスで行政を学んだという八幡氏が蓮舫氏のケースをあれほど激しく攻撃するのが不思議でならない。

 

参考文献)
1)安保祐美子『国籍法改正に関する仏独比較』(横浜国際社会科学研究 第20巻 第3号 p39) 
https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=3210&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1&page_id=13&block_id=21

(2018年10月27日、リンク切れのため、次のリンクを追記します。)

https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=3210&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1&page_id=59&block_id=74

2)水野豊『意思表示のフランス国籍 パスクワ法からシュヴェーヌマン法へ(1994~1998)』
http://ci.nii.ac.jp/els/contents110000466359.pdf?id=ART0000845468

3)斎藤かぐみ『フランスの国籍法と移民法の再改正の動き』
http://www.netlaputa.ne.jp/~kagumi/prive/weil.html

*1:当初>「19世紀から出生地主義を取っている」
と書いておりましたが、2018年10月27日

>「19世紀から出生地主義を制度に一部採り入れている」
に修正しました。

「国籍選択」と台湾籍(2)

「国籍選択」と台湾籍(1) - 氣象報告常常不準 の続き

台湾籍の場合

イ)「台湾籍だけを持っている人」が日本に帰化手続きをする場合
→台湾籍の放棄を求められ、手続き後は日本籍のみになる。

 

ロ)「日本籍だけを持っている人」が台湾に帰化手続きをする場合

→日本籍は離脱できない。台湾籍の付与により『日台重籍』になる。(台湾籍は国籍法11条『日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。』の『外国籍』としては扱われていない)

多田恵先生の「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法戸籍を管掌する法務省の恣意的な解釈を排すために」【機関誌「日台共栄」10月号(第40号)】
http://www.ritouki.jp/wp-content/uploads/2016/10/40-5.pdf

の「日本政府の台湾という政治的実体についての取扱い」によると

《(中略)『日本国籍離脱』の手続きであれ『日本国籍喪失』の手続きであれ、台湾『国籍』への帰化ないし選択のためということであれば、これを行うことが出来ないという取り扱いだという。
 その理由は、国籍法の条文が「外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる(十三条)」というふうに「外国の国籍を有する」という条件であるところ、台湾(中華民国)は日本が承認している政府ではないため、それが証明書を出すところの「国籍」は「外国の国籍」にあたらないためだという。》(p21)

 この、台湾籍を「外国の国籍」にあたらない、とする法務省の説明は、一般にはほとんど知られてはいまい。
===============
平成28年10月18日(火)の法務大臣の記者会見で

>台湾出身の重国籍者については,法律の定める期限までに日本国籍の選択の宣言をし,これは国籍法第14条第1項,従前の外国国籍の離脱に努めなければならない,これは国籍法第16条第1項ということになります。期限後にこれらの義務を履行したとしても,それまでの間は,これらの国籍法上の義務に違反していたことになります。

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00823.html

 との説明があった。これは、日台重籍の解消を

イ)(台湾から日本への帰化)への擬制、により説明したものと言える。

ただ、「選択」の説明である以上は、

ロ)(日本から台湾への帰化)

に擬制した扱いについてもきちんと説明すべきだろう。

 「日本籍、台湾籍、どちらか選べと言われれば台湾籍を選びたい」と思うことが「違法」であるはずもない。台湾籍を選ぶ方法を手続き上閉ざした状態で、「選択」を「義務」だとして迫るのは、制度として重大な欠陥をはらむものだ。

「国籍選択」と台湾籍(1)

 まず、一般の国籍変更(帰化)の手続きについて考えてみる。

  •  イ)「とある外国(A国とする)の国籍だけを持っている人」が日本に帰化手続きをする場合、

国籍法5条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。
(1項5号)国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。

とあるので、手続きの中でA国籍は失われ、重国籍にはならない。一方、

  •  ロ)一般に「日本国籍だけを持っている人」が、A国国籍を、自分の意志で取得する場合

国籍法11条 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。

によって、日本の国籍は自動喪失するから重国籍にはならない。

 このように、日本の国籍法上、本人が直接、重国籍になろうとしてなれるケースは条文上はない。重国籍になる場合というのは、

「生まれながら」(国際結婚家庭の子や、生地主義国での出生)
もしくは
「日本人が意図せず外国から付与された」(居住実績、結婚など。条件は相手国の法令による)

などだ。これらは、本人の直接の意思によらず、「たまたまそうなってしまった」というものだ。
 ただ、「たまたま」とはいえ、そうした例外状態を長期間認めるのはいかがなものか、という観点から、一定の猶予期間ののち、上記、イ、ロのどちらかの国籍変更手続きに擬制することで、例外的な状態を解消させようというのが国籍選択の趣旨だと考えられる。

「国籍選択」と台湾籍(2) - 氣象報告常常不準 に続く