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「霞ヶ関文学」が生み出した蓮舫「二重国籍」の虚構

台湾の声編集部 多田恵氏の 2018年4月2日 の記事

ritouki-aichi.com

内容は、

・「二重国籍」と日本

日時:2018年4月28日(土)13:00~17:00

場所:日本記者クラブ9階会見室

 という、ジャーナリストの野嶋剛氏から発信されたシンポジウム案内を紹介する趣旨のものであるが、記事中には、これまでマスコミでは触れられてこなかった重要な問題提起を含んでいる。

 記事の冒頭にあるように、多田氏は、蓮舫騒動が持ち上がったごく初期(2016年10月18日)の段階で

・「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法-戸籍を管掌する法務省の恣意的な解釈を排すために」日本李登輝友の会機関誌『日台共栄』2016年10月号

www.ritouki.jp

という秀逸な記事を書かれている。その中では2004年の「陳全壽氏事件」(日台重籍だった陳全壽氏が、台湾の行政院体育委員会の主任委員(閣僚)になるため日本籍を離脱しようとしたところ、受理されなかった事例)を紹介され、さらにご自身でも改めて法務省に確認をされた。2016年時点において法務省から

「日本国籍離脱」の手続きであれ、「日本国籍喪失」の手続きであれ、台湾「国籍」への帰化ないし選択のためということであれば、これを行うことが出来ないという取扱いだという。
・その理由は、国籍法の条文が「外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる(13条)」というふうに「外国の国籍を有する」という条件であるところ、台湾(中華民国)は日本が承認している政府ではないため、それが証明書を出すところの「国籍」は「外国の国籍」にあたらないためだという。

  との説明を引き出しておられる。

※国籍法13条の対象は「外国の国籍を有する」日本国民だが、台湾の「国籍」は「外国の国籍」にあたらないから対象外だというのである。

 では、「選択義務」を定めた国籍法14条はどうか?14条の条文は、

「外国の国籍を有する日本国民は、(中略:期限についての記載)いずれかの国籍を選択しなければならない。」

というもの。義務の対象者を示す文言は「外国の国籍を有する日本国民は」であり、13条と全く同じだ。台湾の籍が法13条で「外国の国籍」にあたらないのならば、法14条においても「あたらない」と読むのが自然であろう。もし14条においては13条と逆に「外国の国籍」として扱う、ということであれば、運用の説明においてその旨を特記されるべきであろう。

 ところが、多田氏のこの論考が書かれた同じ日、すなわち2016年10月18日に当時の金田法務大臣の記者会見があり、
>「一般論として,台湾出身の重国籍者については,法律の定める期限までに日本国籍の選択の宣言をし,これは国籍法第14条第1項,従前の外国国籍の離脱に努めなければならない」

法務省:法務大臣閣議後記者会見の概要

という大臣見解が示された。

これをもって、法解釈の問題は「一応の決着を見た」と多くの方は理解したようだ。

 

 さて、当時全く納得できなかったのが、「ワタシ(Liuk)」だった。「選択が義務」と言われたとして、仮に「日本籍を抜けてもいいから、台湾籍の方を選びたい」と思った人はどうしたらよいのか?という疑問を抱き続けた。そして自分で東京法務局国籍課に問い合わせた。今回の記事ではこの件を取り上げていただいている。

> その後、日台「二重国籍」について研究しているLiuk氏(ペンネーム)は、日台「二重国籍」者が台湾籍を選択することを法務省が認めていない、つまり選択できないのに、選択の義務があるとされていることについて疑問を持ち、2017年10月2日に東京法務局国籍課に問い合わせ、“日台「二重国籍」者について、日本では「日本の単一国籍」として見ている”、“選択の宣言は必要ない”という回答を得て、その音声をユーチューブに公開している:

www.youtube.com

 これはどうなっている? 法務大臣の記者会見が正しければ、法務局の説明は不適切であろう。法務局の説明を信じるなら、法務大臣の記者会見内容に問題があることになる。事実は再検証されなければならない。

>「法相は選択の必要があるとし、法務局は必要がないとしている、つまり矛盾しているように聞こえる。仮に、矛盾していないとして考えるならば、法相が言及したケースは、台湾出身で、かつ、台湾でも日本でもない国の国籍と日本国籍を同時に有するという重国籍者のケースだということになるが、マスコミも法相の発言がそのような意味だとは受け取らなかった。」

 あらためて法相記者会見の発言内容を確認すると

>「2016年10月18日、法務大臣が記者会見で「一般論として,台湾出身の重国籍者については,法律の定める期限までに日本国籍の選択の宣言をし,これは国籍法第14条第1項,従前の外国国籍の離脱に努めなければならない,これは国籍法第16条第1項ということになります」とし、蓮舫氏の日台「二重国籍」は違法状態であったかのように報じられた。」

 注目したいのは、法相が使った「台湾出身の重国籍者」という奇妙な表現だ。
 では「蓮舫氏」は「台湾出身の重国籍者」なのか、といえば、

>「しかしながら、蓮舫氏は東京都出身とされており、法相が言及したケースには厳密には当てはまらない。」

 なるほどこれが、巷に言う「霞ヶ関文学」か・・・。法相は「(法上の)重国籍者」なら「重国籍者としての法上の義務を負う」と、条文上で当たり前のことを、もっともらしく述べたに過ぎない、とも読める。

 しかし感心している場合ではない。その後の「二重国籍批判」報道の過熱ぶりと、これがもたらした野党党首の辞任という結果。さらには、今なお多くの日台重籍者が「選択の義務がある」という理解の下で手続きに心を悩ませていることを考えれば、一刻も早く事実関係を再検証しなければならないはずだ。

 事実が、もし当時の法務大臣の説明を受けて一般に理解されていた、

「選択義務違反」というものとは違うところにあったとすれば、

「霞ヶ関文学」が生み出した虚構に日本中が踊らされていたことになる。とんでもない話なのだ。

( ※なお多田氏のお立場はあくまでも「台湾は国として扱われるべきであるという」というものであり、「日本は、他の重国籍者に対して課している義務を、日台「二重国籍」者にも課すべき」と書いておられる。
 当方も、これには全く賛成であり、台湾籍を他の外国籍と同様に扱うことを認め、その上で義務があるならば課せばよいと考える。
 しかし、少なくとも今の状態で、選べない選択に義務があるかのように理解されているのは不適切であり、一刻も早く正確な情報を(口頭だけではなく、公に参照できる形で)公開してもらいたいと思っている。)